伊豆諸島訪問記 – 着陸 –

式根島南岸へ到着

振り返れば神津島。
霞がかるのは凪いだ証だ。
神津島からシーカヤックで独り渡り始めた私は、1時間半かけて式根島南岸へと辿り着いた。
式根島の南側へ大きく開けた御釜湾(みかまわん)…その縁は、断崖絶壁が続く。一先ず、時計回りで式根島を回ってみよう。

断崖に波はじける御釜湾
この海下の海中温泉には、ウミガメたちが多く潜んでいるらしい。
楽園への入り口
御釜湾の入り口は、大きく潮が流れる場所。地元の船乗りたちも注意するスポットだ。代わりに、こういった潮が速い海では、いい魚を取ることができる。
漁船以上に航行能力が高いシーカヤックで、丁寧に海を漕ぎ抜けていく。
カンビキという海にやってきた。
まさに楽園という名にふさわしい絶景。
潮が引き始め、浅くなっていく海にラグーンが誕生したところだ。
浅瀬となるラグーンでも、水深20cmでも浮かぶことができるシーカヤックにとっては、航行可能な水域。潮位がちょうど良い塩梅だから発生した魔法のようは海なのだ。

カンビキに続き、時計回りに中ノ浦を抜け、大浜へ到着
夏は浜の裏手が、キャンプサイトとなり賑わう場所だ
「ふぅ~」と息をついた…
これは、コバルトブルーが美しい海にうっとりしただけではなかった。3日間、低気圧の影響で神津島へと閉じ込められ、緊張していた気持ちが、この凪いだ海でようやく解けたのであった。平和だ。
泊でナンパ
大浜を過ぎると、また海原がやってきた。
隠れ岩を早めに見つけながら、式根島の最北端へとやってきた。
ここには、泊(とまり)という海水浴場ある。
伊豆諸島は、江戸時代に流人の島として機能した歴史を持っている。
その中継地点として式根島が機能した際、良港として選ばれたのが、この泊であった。

現在、夏は家族向けの海水浴場として賑わう泊(とまり)
狭い湾の口で海原をシャットアウトし、内側へと扇形に開いた小さな湾は、シーカヤック(写真中央)にとっても良港だ。
泊を見渡す丘から、再びシーカヤックが陸揚げされている浜辺まで戻ると、すぐ私は女性をナンパした。
ちょうど1人で浜辺を歩いていたところ、声をかけたのだ。
年齢は、20代後半から30代前半といったところか。1人で島旅をするなんて、きっと素晴らしい女性に違いない、そう直感したのだ。
といっても、そんな色っぽい話ではない。上陸したばかりの私は、写真を撮ってもらいたかったのだ。

泊で女性に撮影してもらった私。
5月終わりの初夏の陽気。すっかり足元は裸足だ。島を渡り、素足で砂を踏みしめる感覚は、この上なく贅沢な時間
着陸
女性に別れを告げ(一応名刺を渡し)、一路寝床を求め漕ぎ進んでいく。
泊海水浴場の脇には、水路があった。ここは潮流の影響で、たまに海水浴客が流されてしまう危ないスポットらしい。
離岸流(りがんりゅう)にしろ、ただ泳いでいるだけでは、危ういスポットが潜んでいる。それが海というものだ。
カヤックで、その“流れ”に乗り、再び海原へと抜き出てきた。

式根島の最北端から、北東方面を眺める。
高い山を持つ新島だ
新島を左舷に見ながら、式根島の東岸を漕いで行く。
現在、貨客船の寄港地として整備された野伏(のぶし)の港前で、安全確認。
港の入り口は、船舶の往来が多い場所であり、シーカヤックよりも船舶を優先させるわけだ。
式根島で最も整備された海岸線を右舷に見ながら、ゆっくりと漕いで行く。
左手前方には、新島の白く美しい「白ママ断層」と早島が見えた。

新島(左)と早島(中央)
この間が、流れが相当速いということ
翌日、実践あるのみだ
式根島の南東に位置する石白川(いしじろがわ)海水浴場で着陸。

式根島を時計回りにぐるりとツーリング
夜のあーだこーだ
石白川で上陸し、隣の釜の下にあるキャンプ場へと荷物を運ぶ。
この後が大変であった。
着陸時間は、16時半。キャンプ場の受付が17時までなのだ。
受付場所は、野伏にある式根島観光協会。先ほど寄航して手続きをしておけばよかったのだ。
ギョサンを履き、陸路ダッシュで島内を駆け抜ける。
式根島は、伊豆諸島の中では最も小さな島なのだが、意外と広いということを忘れていた。
間に合わない!!
そう思ったとき、途中の商店前で、知人に会った。
式根島観光協会事務局長の田村氏。
そう、まさに彼に手続きをするため、ダッシュしていたのだ。
車に乗せてもらい、無事手続き完了。
荷物整理を終え、式根島名物の無料露天風呂を堪能。

釜の下キャンプ場から無料温泉(松が下雅湯)までの道中。式根島港も暖色で趣き深い

キャンプサイトにはネコ。これ通例
疲れた身体(特に陸路がんばった脚)を解し、キャンプサイトへ帰還。
またもやネコが潜んでいた。ネコと“やりとり”し、就寝。
翌日の島渡りが楽しみだ。