伊豆諸島訪問記 – 離陸 –
4日目、ついに神津島を出発
朝凪を迎えた神津島の沢尻湾。
まるで、前日までの嵐が嘘のような、蒼い海が広がっていた。
テントを畳み、カヤックに全て載せる作業は、30分から1時間はかかる。 「立つ鳥跡を濁さず」がカヤッカーの基本だ。
3日間お世話になった浜辺を後に、ついに離陸。海の上をカヤックは滑り出した。心ときめく時間。
神津島北端の神戸山(かんべやま)を眺め、いざ最初の島渡り、式根島への渡航が始まった。
理論上の島渡りの手法とは?
島渡りの基本はこうだ。カヤックの舳先(バウ)を行先の最も高い山に合わせる。そして、カヤックの艫(スタン)を元いた島の最も高い山に合わせ、その間で引いた線をなぞっていく。
カヤックは前向きの舟であり、人間の目は前向きに付いているため、時として後方確認を忘れることがある。水上は、潮流や風の影響で、揺れ動く生き物の上を上手く流れ着くように進まねばならない。そのため、前だけ向いていては、自らが流されて思うように前進していないことに気が付かないケースが多々あるのだ。たまには後ろも振り返る。人生も同じだ。
今回は、まず後方に神津島の神戸山を合わせ、前方に式根島の御釜湾(みかまわん)を合わせ、結んだ線の上を漕いでいくのだ。逐一後方確認を忘れないように…
実際、島を離れ―――
神津島へ引き寄せられる…どういうことだ?
二十五日様の仕業?!潮流体験
神津島には、旧暦1月下旬になると、二十五日様(にじゅうごんちさま)という霊が、彷徨うそうだ。
まるで、その霊に綱で引っ張られてるかのごとく、神津島へと引き戻されていく。恐怖を感じた。
神戸山が離れない。景色が変わらない。
これが、伊豆諸島における潮流の威力だ。新進気鋭の若手プロカヤッカー(自分で言うな)が全力で漕いでも、まるでルームランナーのように逆流を始める海。
30分ほど漕ぎ進めると、澱んだ海水が広がっていた。
海のど真ん中に浮かんだゴミ
蒼く澄んだ海を目一杯漕いでいたのだが、漂流ゴミの溜まり場に突入した。すると、先程までの流れが収まり、ようやく一息つけた。
ここが、潮目という。
水の流れというのは、本流とその反転流と2つに分けられるが、その狭間なのだ。
漂流ゴミの溜まり場=潮目
素晴らしい方程式を思い出し、二十五日様から逃れた私。
カヤック応援隊
調子が出て巡航速度を維持するシーカヤック。もう少しで式根島だ。
見上げると、鳥が1羽。私の廻りを大きく旋回しながら挨拶をしていく。
カツオドリが去る頃、私も式根島へと着陸体勢に入った。