伊豆諸島訪問記 – 給水 –
3日目、おそようございます
ファスナーを開け、テントから這い出る。
神津島滞在3日目。「住めば都」というが、テント生活は身体に合っている。2畳ほどしかない空間を上手く使いこなす。この上なくミニマムで居心地が良いのだ。
この日も、ナライという北東風は未だ健在。ここ西の浜は、キャンプサイト裏の天上山が遮り風の影響がほとんどないのだが、島を脱するには未だ時が必要だ。
3日目も神津島停滞が決定。
ただ呆けているのもモッタイナイ。
美味しい夕食を作ろう
と思い立ち、昼前から準備を始めた。
食材よりも、最も大切なものを求めて、私は島の東側へアプローチすることにした。
もう少し海が凪いでいるならば、シーカヤックで島をぐるりと半周した方が、荷物の運搬などは楽なのだが、断念。
ギョサンを履いて、東の前浜経由で、峠を越えて東浜へのアプローチを図った。
天然水湧き出る多幸湾を目指す
西の前浜から東を見る。大きな雲が天上山に突っかかっているようだ。つまり、強力な東風に煽られて発生した雲が、巨大生物のように天上山を乗り越えようと意気込んでいるのだ。
その“デイダラボッチ”の麓に、湧き水がある。湧水100選である神津島の多幸湾(たこうわん)の湧水を使って、夕食を作る。それが、この日の目標だ。
わざわざ数時間かけて夕食を作る…なかなかオツであろう。
ずいぶん標高が高くなってきた。
天上山に開けられたトンネルを潜り抜けると、風を諸に受けた。島の東側へやってきたのだ。
見下ろすと、蒼く美しい多幸湾が待ち構えていた。
湧水を堪能するには…
強い東風の影響で、波立つ多幸湾。初夏といえども、ウインドブレイカーが必要な肌寒さを覚えた。少し身体を温めなくてはならないな―――
少し脱水した身体を、湧水で潤す。格別の一杯だ。
もちろん、コーヒーもこの水で淹れてみた。
持参した水タンクに、たっぷりと湧水を入れて帰還。
復路は、神津島内を走る定期路線バスに乗車し、前浜まで戻った。片道200円。重量ある水を担いで峠を再び越えることを考えると、安いものだ。
優雅な夜を迎え就寝
夕食はパスタ。
多幸湾で汲んだ湧水と、ここ沢尻湾の海水を、それぞれ2対1で鍋に入れて沸かし、麺を投入。
お酒を嗜み、テントに籠った。
「翌日は漕ぎ出せるだろう」と確信できたのは、西の海へと沈んでゆく三日月を見たからだろうか。