伊豆諸島訪問記 – 攻防 –
ナライを受ける伊豆諸島の初夏
テントから抜け出ると、灰色の朝を迎えた。
初夏の時期は、移動性高気圧と低気圧が入れ替わりやってくる季節
低気圧がやってくると、ここ伊豆諸島では、北東風が吹き荒れる。
ナライというこの風は波を立たせ、伊豆諸島の各島を断絶させる。もちろんシーカヤックでは島渡りは困難な海況だ。
そんな事態は理解していたのだが、海へ出撃して様子見をしようじゃないか。
沢尻湾を北へと発ち、赤崎へ到着。
雨が降ってきた。流石に誰も海には出ないだろう。水温は19℃だ。
そのまま神津島の北端まで漕ぐ。神戸山(かんべやま)が北の目印だ。
写真では分かりにくいが、波の高さは3メートル近い。
波だけでなく、潮の流れも強いので、ここは頑張らずに引き返す。
我を張っても命を失うだけだ。
こうして2日目も観光客に
沢尻湾の“マイホーム”へと帰還し、夕飯の買出しへ。
前浜の港周辺には、売店がいくつかあるが、漁協直営の施設もある。
ここで、ここ周辺の島名物である「赤いか」を購入した。
いつか、島の祭典を東京の竹芝ふ頭で行っていた際、B級グルメとして出店していた「赤いか焼きソバ」を作ってみたくなったのだ。
往路は海沿いの道を歩いてきたが、復路は違う道を通りたくなった。
男は常にワンウェイ!私の持論である。
※同じ道を通るよりも違う景色が見たいだけである…
前浜の海水浴場から坂道を上がり、“マイホーム”へと向かう。
あまり漕いでいないから、少し運動せねばならない。
前浜の集落を後にすると、本格的な山道だが、至る所に文明が残っていた。
山道の頂上は、赤根堂という霊堂がある。
時刻は夕暮れ時。薄暗くなってきた山道に、少し怖くなってきた。霊堂にあまり長居せず、すぐに下山を開始。
沢尻湾へと戻る途中に、空の美しさに気が付いた。
遠回りした結果、いい夕暮れを迎えることができた。もう少しで海も穏やかになるだろう。
空腹を満たすため、赤いかの焼きソバを調理。
ビールと共に頬張っていると、ヤツラが現れたのだ。
夕闇の大攻防戦
ソイツラは音も立てずにやってきた。
私が調理している炊事場には入り口が2つあるのだが、すでに入り口は押さえられていた―――包囲されている!
私は、背筋に冷や汗を覚えた。
キャンプ場周辺に住んでいる子猫たちが6匹。
狙いは、私が作った焼きソバだろう。
まず、私がやらねばならないのは、「逃げ道の確保」であった。
子猫たちに抑えられている入り口を、1つ奪取せねばならない。
1つの入り口には、子猫が4匹。もう一方には、2匹。少ないほうを奪取し、私は彼らに見つからないように身を隠す。
やられたら、やり返さねばならない。それが野生の掟だ。
反撃
残った赤いかの焼きそばを囮に使い、私は子猫たちを一網打尽にする計画を思いついた。
身を隠し、その機を伺う。
ヤツラは何も知らずにノコノコとやってきた。
野生といっても、まだまだ素直な子猫である。
隠れて観察していると、私はあることに気が付いた。
子猫6匹も同い年ではないようだ。中学生のような兄貴分がいて、小学生もいるわけだ。
赤いかの焼きソバへ、もう一歩までやってきた“末っ子”
そんな小さな子猫の前に、私はダッシュで姿を現した。
一目散に逃げ出す子猫たち。
こうして、無事炊事場を完全に取り戻した私。
こんな攻防戦を1時間以上行ったのだ。
1人の夜を賑やかしてくれた子猫たち、ありがとう。