伊豆諸島単独漕~難航~

伊豆諸島単独漕~難航~

モヤイ島

遠征6日目。伊豆諸島の新島。
久々に、建物の中で起床した。

新島の主要港である前浜、その近くに隠したカヤックを回収し、荷物をパッキング。
日数を重ねると、パッキングも短時間でできるようになってきた。何事も慣れが大切だ。

 

出航前
230cmのパドルを持つ筆者と
新島モヤイ像と

ここ新島の特徴は、島特有の坑火石(こーかせき)で生み出された「モヤイ像」が、海岸通りをはじめ、島の各地を跳梁している。まさに“モヤイ島”新島。実は、島外において、東京都の渋谷駅と蒲田駅にも、ひっそりと“モヤイ島支部”があるのだ。
モヤイというのは、おそらく「舫い」という言葉と同義である。
「舫い結び」という、船乗りの多くが使用するロープワークで使用される言葉であり、人と人とを繋ぐ大切な意味が、この“モヤイ”に籠められているに違いない。

この島渡りも、私の知人たちを繋ぐ“モヤイ旅”である。その思いを胸に、新島を離陸した。

移動性高気圧の終焉

「高気圧ボーイ」というのが、私が25歳から29歳までの通り名であった。
イベントに参加すれば、必ず晴れる、というジンクスがあった。“テルテル坊主”のようだ。

日本列島を覆っていた高気圧が去り、
低気圧が西からやってくる。

この島渡りは、最初3日目の低気圧を経て、移動性高気圧へシフトしてきた。
その高気圧も、ついに終わりを迎えようとしている。それが、この6日目であった。
どれだけ意気込みが強くとも、例え「高気圧ボーイ」であろうと、強力な低気圧がやってくれば、また島に閉じ込められるのは必定。
問題は、何処の島で閉じ込められるのか、であった。

叶うのであれば、新島の次の島まで渡って閉じ込められるほうが、旅としては上々なので、北の海を目指していく。

西海岸の過酷な旅

前浜を離陸すると分かったこと。なかなか風が強い。
風向きは、北北東の風といったところか。
風は、高気圧から低気圧に向かって螺旋を描いて発生する。
高気圧が去り始めた証だ。

出航してすぐ、海岸線と並行するように沖に設置された波消しブロックを左手に見ながら漕ぐ。

新島で最も賑わいをみせるビーチでは、この土木工事により、砂が流出と堆積が問題となっているのであるが、
このような強風下でのカヤックツーリングでは、旅を少し楽にしてくれる。

北北東、つまり正面右手から吹いてくる風を、新島の猛々しい山々の影に隠れながら、やり過ごし北上。

とはいえ、風は容赦なく身体を吹き抜け、体力を奪っていった。

青々しい浅瀬の海岸線を北へと進む。
標高400メートル級の宮塚山(みやづかやま)が、北北東からの風を遮ってくれる。

穴があったら入り隊

穴があったら入りたい。そう思ったことはあるだろうか。
私は度々ある。
恥ずかしさを感じたときではない。カヤックでツーリング中に、洞窟を発見したときだ。

日本各地の海岸線では、たまに“青の洞窟”と称したクルーズツアーがある。
これは、動力がついた観光船に乗り、広く開いた洞窟を見に行くものだが、
この小さなカヤックにとっては、洞窟など入りたい放題だ。

これを「穴があったら入り隊」というのだが、この新島にも洞窟があったのだ。
向かい風で体力を奪われた旅人にとっては、休憩所に最適な場所だ。

新島西海岸の高根から大磯の間に洞窟発見。入るっきゃない。


洞窟に入るポイントは、後ろからの波を受けないことだ。
波は、狭く水深が浅い洞窟の中で乱反射し、思わぬ事故へと繋がる。
必ず状況を確認し、無理なら入るのを諦めること。
この日は波がなく、洞窟の恩恵にあずかった。
ここは、通り抜けができる洞窟。上から差し込む光が、なんとも心を和ませれくれる。
おそらく、この場所に入ってくる人間など皆無であったろう。シーカヤックならではの景色だ。

新島北部へ着陸

洞窟で風を避け、美しい洞窟の景色に力を蓄えて、再び出航した。

もう少しで若郷(わかごう)へ到着。

新島は南北12km、東西に3kmと細長い地形となっている。

南の前浜とは別に、北に若郷という地区を持つ。

ここの海岸線に向けて、強い向かい風の中、漕ぎ続けた。

若郷地区へ無事着陸。 約7kmのツーリングであったが、1時間半かかった。 なかなかハードな海況であった証だ
同じ新島でも、少し景色が違い異国感漂う若郷地区

襲撃

6日目午前の航程 前浜から若郷まで

少し早いが昼食休憩をとった。
若郷の浜を見下ろすことができる高台に東屋があった。絶好の休憩所だ。
1時間半とはいえ、強い風で体温を奪われていた。
食事を終え、少々低体温気味な身体を、仮眠で回復する。

10分くらい眠っていたのか。
耳元で、コツコツ、と聴こえた。
考え込みながら再び眠りに就こうか迷った瞬間、襲撃を受けた。

狡猾な黒い影。カラスだ。
クチバシに私の食料をくわえ、旋回して彼方へと去っていった。
泣きっ面に蜂ならぬ、寝耳に烏である。

前途多難な島渡り。これから最大の難関が待ち構えていた。

若郷の休憩所、襲撃現場