鬼怒川SUP旅 – 新しきも古きもある川沿い –

 岡本頭首工で深沢センパイと別れ、まだまだ滔々と流れる鬼怒川の流れに乗り、今夜の泊地へと進む。正面に鎮座する筑波山は、徐々に大きく見えてきた。

頭首工は段差があるため、安全に下流側へ移動すること

予約済み泊地 真岡(もおか)へ

 今回の旅は、あらかじめ遠藤さんが宿(ホテル)の手配をしていたのだ。テント泊と異なり、宿では心地よく宿泊ができる。一方で、宿がある場所まで意地でも漕ぎ進まないと行けない。予定より早く進んでいる際は、その日の旅は宿がある場所で足止めにもなる。何事にも一長一短があるということだ。

 私の故郷は壬生町(栃木県下都賀郡)だが、実家から真岡までは車で30分の距離だ。夏季に人気の施設「一万人プール(通称 まんぷー)」には幼少期によく通ったものだが、その道中に必ず何処かで鬼怒川を渡らなければならない。暴れ川でもある大河には、数㎞に1つしか橋は架けられていないため、車では何処の橋を渡るか決めて動かねばならない。そんな陸路事情を川の上から眺めるのも新鮮だ。

いつかの大水で流された架橋であろうか。流れて橋に引っかからないようコントロールが必要だ

 鬼怒川の左岸に巨大な丘陵地が出現してきた。
 飛山城史跡公園―――鎌倉時代の城跡であるが、古代の出土品もあるということで、昔から拠点として有効であった土地だったのだろう。川沿いは、そんな歴史が点在しているから面白い。

右岸の飛山城跡

 そして、次に見えてきた橋は、「LRT(Light Rail Transit)」なる公共交通機関の橋として建設中であった。宇都宮駅から東へと延び、鬼怒川沿いに発展している工業地帯へと繋ぐLRTは、2023年夏に開業予定―――富山県内に1948年に敷設されて以来の試みとなっている。この令和の時代に新しい路線が敷設されるとは時代が逆行しているかに思えるが、また新たな歴史が刻まれていくのだ。

LRT架橋と遠藤さん

頭首工もいろいろ

 江戸時代の終わりに開国して以来、外国語から直訳された言葉が、今の日本で普及している。
 Headworksから直訳された頭首工とは、農業用水を河川から取水するための一連の施設(堰、取水口など)の施設の総称であるが、先ほど越えた岡本頭首工に続き、勝瓜にも頭首工がある。

 時季は渇水期の冬季のため、勝瓜頭首工手間にある中央の魚道が安全に利用できそうだ。魚道とは、頭首工により川が分断され、遡河性の魚種が行き来できず種が絶えることを防ぐために作られた人間のエゴの構造物である。魚道の形状にもよるが、たまに人間が利用してみるのいいじゃないか。一度上陸して、3人で分担して荷物を運ぶ。

勝瓜頭首工の魚道を抜ける

 運び終えて再び漕ぎ出すと、頭首工の点検で来ていた役人たちに「危ないですよ!」と注意された。年度末だから予算消化のために点検に訪れているのだろう。その言葉以外、役人としては発せられないだろうが、旅人としては応援の1つ欲しいものだ。

 正面からの夕日が眩しい。日没前には真岡へ到着するべく、黙々と南へ進んでいく。

北関東自動車道架橋の1つ下流側「東蓼沼橋」は人道橋になっていた

 時刻は17時30分。なんとか日没に間に合い、鬼怒大橋の右岸で上陸。
 真岡の町まで2㎞をテクテクと歩くと、正面から満月が上がってきた。

疲れていても元気をくれるのが満月のいいところ