坂東の水旅 – 鴨肉に揺れるセンチメンタルジャーニー –
強烈な追い風と雨上がりの濁流を利用して、快調に小山から印西まで90㎞を進んだ1日目。
朝6時から日没後20時までと14時間も休みなしで漕いだので、さすがに少し休息を。
2日目の朝はゆっくりと
2日目は、長門川の入口にある長門公園からスタート。ARAI TENT社のビビィシェルターのおかげで、寒さからを凌ぎ無事に朝を迎えられた。
ここ長門川を南下すると印旛沼へ辿り着く分岐路の公園で野営となったが、近くにコンビニエンスストア セブンイレブンもあり公園内には公衆トイレもあるので、野営地としては快適。
少しゆったりと過ごし、持参した朝食を摂り準備万端。
酪農家 上野さんとの再会
長門川公園を後にし、東へと漕ぎ出す。ここから利根川の下流域は、川の流れが無くなる。今から約1000年前、ここには香取海という大きな内海(瀬戸内に次ぐ広さ)があったそうだ。これから漕ぐ川を海とみなして漕ぐと、その流域の性質が腑に落ちるはずだ。
海でSUPを漕ぐ…気をつけなければ行けないのが風向き。風向きにより、天国と地獄とどちらが訪れるのか分かれるのだ。これは、旅人としては常に頭の中に描いておかなければならない。
さて、行政区画としては、右岸側が千葉県。左岸側の茨城県で知人が待っていてくれている。
酪農家、上野裕さん。2013年に茨城県稲敷市の水辺活用イベントでお会いして以来、SNSを通して繋がっている方で、酪農家として多くの方から支持を得ている素晴らしい知人である。
2013年のイベント会場となった金江津(かなえつ)で再会。COVID-19で共に動きにくい日々を憂いながら、再会の歓びを分かち合った。
「ちょっと御土産とってくるから」
と、愛犬のリーシュを私に手渡し、一時去る上野さん。飼い主が離れてクゥンクゥン泣き出す大型犬と、そこまで犬が得意でない私との微妙な時間が始まった。
御土産には、なんと尾長鴨の肉と長ねぎ。
「これで鴨鍋でも作って食べて」
上野さんは狩猟も行う。12月から1月が渡り鳥(真鴨、合鴨など)の狩猟の時季だそうで、この愛犬が活躍する時季でもあるそうだ。
こうして、御土産をSUPボードにくくりつけ再び旅が始まった。
嵐の予感
上野さんと別れ、東へと進む。ポコポコと空低く雲が発生してきた。
いただいた鴨肉をよく観察すると、心臓やガラと調理しやすいように分けられていた。独りで食べるには勿体ない。家族で食べたいな…なんてセンチメンタルジャーニーになっていると、空がどす黒くなってきた。
先述した通り、ここは香取海。広々とした海で暗雲、つまり突風が吹く可能性がある。場合によっては、関東平野でしばしば発生する竜巻になる可能性があり、風速100m/sともなると危険だ。
佐原へ緊急着陸
この2日目に着陸予定であった佐原が、あと少し。吹き出してきた冷たい北東風に乗り、佐原への入口を探す。
水郷大橋の手前に、排水機場へとつながる水路があった。急いで入ってみると高く迫り出すフェンス。上陸を阻まれている。
仕方なく利根川本流へと再度漕ぎ出し水郷大橋を潜ると、川の駅佐原まで少し…ここで小野川の水門が開いていることに気が付いた。
小野川は、佐原の街中を流れる情緒あふれる都市河川であり、小江戸としての佐原へ水運を発達させた基点であった。
ただし、現在は地元の河川団体の占有利用で、河川への入場ができないそうだ。
しかし、ここは緊急着陸。恐る恐る小野川を遡りながら、着陸態勢へと移った。
上陸後、河川から距離を取って片付ける。道行くおばあさんから「こんばんは」と挨拶。もう夕暮れ時だ。
本来ならば、利根川河口の銚子という町まで進もうかと当初は思っていたところ、悪天候での上陸とプラン変更を余儀なくされた。これも旅の醍醐味である。
佐原駅からJRに乗り込み、東京駅で再び乗り換えて出発地の最寄り駅小山駅を目指す。
まだまだCOVID-19という疫禍は猛威を振るう2021年春。電車の中は感染のリスクがあがり、川の上よりも危険だな…と大荷物を抱え車内の隅で考えに耽っていた。まずは感染しないよう努め、家族に鴨肉を振る舞う…そんな小さな幸せを積み重ねるのだ。